ロジスティクス研究部
当研究部では、物流業界を様々な観点から研究し、業界の発展とサービス向上のヒントを発信していきます。
2021.01
物流業界は25兆円もの市場規模を占める一大産業であり、その需要は年々増加傾向にある。これに対し大手物流企業では、運送業(第五回解説)や倉庫業(第六回解説)を主軸としながら、自社の強みを生かした多様なサービスを展開。競合他社との差別化を図り、自社の市場価値を高めている。そしてこれらの実現には、多様なサービスを生み出す体制、つまり「組織づくり」は最重要であり、実際に自社組織の見直しに積極的な企業は多い。
そこで今回は「物流業界の仕組み3」と題して、物流業界に関する総まとめを行いながら、物流企業の基本的な組織体制について解説していく。併せて大手企業の組織づくりの傾向や参考となる取り組みなども紹介したい。
物流サービスには「輸配送」「倉庫保管」「荷役」「流通加工」「梱包・包装」の5種類が存在し、企業規模や企業の特色によって得意な分野が異なる。しかし大手の場合、これらすべてのサービスを網羅している企業が大半を占めており、そうでない場合であってもそれぞれのサービスに強い外部ブレーンを抱えていることが多い。
冒頭で述べた通り、物流業界の市場規模は年々拡大しており、その分競合他社の数も増加傾向にある。そのため、多くの企業では自社の優位性を高めるべく「総合的な物流サービスの提供」を目指し、あらゆる策を講じているのだ。
また近年では上記に加え、従業員のバックアップ体制を強化する企業が増えており、より安定した組織づくりが行われている。やはり企業が成長し続けるためには、様々なサービスを手がける「人材」は要。つまり「総合的な物流サービスの提供」を実現させるためには「従業員を支えるバックアップ体制」は必要不可欠なのだ。
上記サービスを円滑に進めるために、大手の物流企業では大きく「運送」「倉庫」「営業」の三部門を構えており、一連の流れを分業して取り組んでいる。以下ではそれぞれの機能の役割について紹介したい。
①配車・配送管理
物量に合わせ車両やドライバーの手配、さらに輸配送時の梱包作業や日々の運行計画表の作成なども含まれている。これらは運送部門の要であるものの人の手で管理するとミスが生じやすいため、※TMSを使用してシステム化を図る企業も多い。
※TMS(Transport Management System):輸配送管理システム
②業務改善
ドライバーが作成した配車日報や業績などをもとに、より効率的な業務方法を考案する。具体的には業者への発注量の調整から、生産性の高い新システムを導入の検討を行い、従業員の負担を軽減する策が練られている。運送業は総原価の約40%を人件費が占めており、従業員の負担の軽減は、大幅なコスト削減に繋がる。
③事故防止対策
自社のドライバーまたは委託業者が、輸配送中に事故を起こさないよう指導・管理を行う。具体的には輸配送時のトラブルを防止するため配送マニュアルを教育したり、日々の車両点検・整備を徹底する。
貨物を管理する倉庫部門では、以下3つの機能を有している。近年ではネットショッピングの需要が増加傾向にあるため、より効率的な業務が行えるよう各作業の見直しに注力している企業が多い。
①倉庫の運営
在庫確認や棚卸し業務、さらには倉庫設備のメンテナンスなどを行う。他にも様々な伝票作成など事務作業も多い。また一部の企業では、自社倉庫の空き状況を確認し、その一部を他社へ貸し出す事業を行う場合もあり、運営の業務範囲はそれぞれの企業の特色が現れる。
②入出庫の管理
貨物が倉庫に運び込まれる際の手続きや指示書などの作成を行う。また場合によっては入出庫時の検品作業が発生したり、出庫に合わせたピッキングや仕分けなどを担当する。
③業務改善
上記の実働作業がより効率的になるよう、人員配置の再検討や新システム導入検討などを行う。近年では※WMSやピッキングロボットなどを導入するケースが増えており、単純作業の人件費削減に注力している企業が多い。
※WMS(Warehouse Management System):倉庫管理システム
自社が有するサービス(運送・倉庫)を使って、クライアントに合わせた物流システムを構築する。
①クライアントの現状を分析・改善策の提案
物流に対する悩みをクライアントからヒアリングし、自社のサービスの中から最適な提案を行う。大半の企業ではすでに物流システムを構築しているものの、現状のオペレーションに満足でない場合が多いため、改善の提案力が鍵となる。
②新規顧客獲得のためのアプローチ
新会社・新事業設立などの情報をもとに、新規顧客獲得のための営業活動を行う。最新情報を収集する力はもちろんのこと、競合他社との違いや営業マンのプレゼン力・人柄などが試される。
③実働時のクライアント窓口
見積もり作成や契約業務など、クライアントとのコミュニケーションを担当する。また全体スケジュールを考案し、関係者を取りまとめるプロジェクトマネージメントなどを行う企業も多い。
多くの物流企業では上記のような分業制を図り、各部門において専門性の高い従業員を配置している。しかしながら近年では各部門の人手不足が叫ばれており、多くの企業では離職率を下げるため「様々な取り組み」が行われている。以下では、従業員を支える組織のバックアップ参考例を紹介したい。
事例1:M&Aによる自社託児施設の拡充(センコーグループホールディングス株式会社)
大手物流企業のセンコーグループHDでは、保育所や学童クラブなどを運営する株式会社プロケア(本社:東京都)の全株式を買収し、2020年8月末より自社の傘下とした。この目的は、主力事業の一つであるライフスタイル事業の強化と、企業内の託児施設を拡充させるためである。託児施設の拡充は、子どもがいる従業員に対し手厚いサポートとなる。また出産や子育てのようにライフスタイルが大きく変化しても、安心して業務に関われる環境整備は離職率低下にも繋がり、安定した人員配置を可能とする。
事例2:モーダルシフトでドライバーの負担を軽減(サッポロビール株式会社)
大手ビールメーカーのサッポロビールでは、ベトナム国内で作られた自社商品の配送手段を、2020年8月より陸路から航路へと変更した。これは環境汚染に対する配慮はもちろんのこと、長距離トラック輸送のドライバーの労働負担の軽減に大きく繋がった。
サッポロビールでは他ビール会社との共同で鉄道コンテナを使った輸送を行っており、日本にてモーダルシフトの実績があった。今回では日本で培ったノウハウを海外へ展開する形となり、物流関連の企業から注目を集めている。
事例3:女性や未経験者に優しいトラックを開発(アサヒロジスティクス株式会社)
食品物流を得意とするアサヒロジスティクスでは、女性ドライバーの支援として女性が運転しやすいトラック「クローバー」を開発した。
このトラックは現役女性ドライバーの意見を取り入れ、女性や未経験者が快適に運転できるような設計がされている。運転席や車内の収納スペースの高さを低く設定し、小柄な女性にも使いやすい車内を実現した。また未経験者のドライバーが安心して運転できるよう、このトラックでは全車オートマタイプを採用している。アサヒロジスティクスはこの「クローバー」を通して、女性や未経験者が働きやすい物流企業を目指している。
各企業では独自の戦略によって自社の特色を強化し続け、様々なサービスを提供している。この動きは年々高まる物流需要への対応であり、企業が存続するためには必要不可欠。つまり今後も、上記のような新しい取り組みは増え続けるだろう。さらに近年では、今回解説した物流サービスをより効率的に稼働させるために、AIやロボなどの導入(※DX化)が活発となっている。これは、重労働かつ人手不足が問題視されている物流企業の業務改善に大きな影響を与えているのだ。
そのため次回では、実際の物流業務で採用されている「DX事例」について取り上げ、各企業の新しい取り組みを紹介したい。実際の事例から、読者が日々感じている業務上の悩みを解決するヒントが見つかることを願っている。
※DX(Digital transformation):データやデジタル技術を活用した変革のこと
田原 政耶
1992年生まれ、東京都出身。
大学卒業後、大手空間ディスプレイ会社にて施行従事者として、様々な空間プロデュース案件に携わる。現在はベトナムへ移り、フリーライターとして活動中。
実績:月刊EMIDASベトナム版 「ベトナムものづくり探訪〜クローズアップ製造業〜」連載