ロジスティクス研究部
当研究部では、物流業界を様々な観点から研究し、業界の発展とサービス向上のヒントを発信していきます。
2020.12
物流企業は、大きく分けて“運送業”と“倉庫業”に分類される。
前回解説した“運送業”は、貨物を目的地まで届ける重要な役割を担う企業で、物流の循環を促進させるためには欠かせない存在である。一方で“倉庫業”とは、貨物を必要時期まで保管する企業を指す。ネットショッピングが主流になりつつある現在では、この倉庫業はいわば物流の“核”となる存在だ。機能的な倉庫を必要な場所に保有しているかどうかは、小売や製造業などを営む数多くの企業にとって生命線に等しい。そこで今回は「物流業界のしくみ2」と題して、運送業と同じく物流を支えている“倉庫業”の実態について深堀りしていく。
11,000者を超える倉庫業者は貨物の保管を主軸としながら、クライアントの要望に応じて様々なサービスを展開している。以下では倉庫業の基礎知識として、倉庫業の概念とその種類について解説していく。
倉庫業とは、物品の保管料を受け取り、自社が所有する建物で荷主の商品や製品を預かる事業のこと。現在には保管業務に加え、流通加工・配送・輸出入業務など、物流全体に深く関わる企業が増えている。これらの業務は自社で完結させる企業もあるが、別の協力会社へ委託している場合も多く、様々な業態の企業が絡み合うことで成り立っている。
倉庫とは、荷主の商品・製品を保管する場所であり、その種類は以下に分類される。
①営業倉庫:倉庫所有者(使用者)が他人の貨物を保管するための倉庫
②自家用倉庫:倉庫所有者(使用者)が自社の貨物を保管するための倉庫
③協同組合倉庫:協同組合が組合員の共同利用施設として設置する倉庫
④農業倉庫:農業協同組合等が米麦等の農産物を保管するために使用する倉庫
営業倉庫と自家用倉庫の違いは、倉庫所有者と荷主の関係性である。
上記の通り、倉庫所有者と荷主がイコールの場合は自家用倉庫であり、倉庫所有者と荷主がイコールでない場合は営業倉庫として位置付けられる。営業倉庫の場合、国土交通大臣の登録が必要となり、倉庫の建物検査などは一般的な検査よりも厳しい。
倉庫業の主軸である営業倉庫は、さらに以下の3種類に分類される。
(a) 普通倉庫:一般的な保管が可能な倉庫
(b) 冷蔵倉庫:10度以下の温度で物品を保管する倉庫
(c) 水面倉庫:原木など水面で貯蔵する倉庫
営業倉庫の中でも半数以上を占める普通倉庫では、製造物や金属、さらに荷主の家財・美術品などを預けることができる。
B to B(企業対企業)のビジネスモデルが主流であった倉庫サービスだが、現在はB to C(企業対一般消費者)を行う業者も増えている。その例として挙げられるのが、“トランクルーム”や“レンタルスペース”といった個人用の物置きスペースだ。最近では住まいとは別にトランクルームやレンタルスペースを契約し、貴重品や普段使わない家財などを収納する人が増えてきている。トランクルームはセキュリティーの質が高いことから、貴重品や重要書類などを預け入れが多く、レンタルスペースは家具などの大きな荷物の保管場所として利用されることが多い。
倉庫会社の原価構成は下記の7つから構成されている。
①人件費:倉庫内の仕分け・荷役作業を行う人件費
②請負費用:製造、営業、物流など業務を依頼する費用
③派遣費用:作業員の人材派遣費用
④減価償却費:フォークリフトなどの費用
⑤賃借料:倉庫などの賃借料
⑥租税公課:租税・公的な負担金の公課費用
⑦その他:水道光熱費・消耗品・通信費など
倉庫業の原価総額のうち、約半分の割合を占める項目が人件費と請負費用である。その中でも人件費は将来的に自動化が期待されているため、今後は更なる削減が予測できる。
倉庫業者は契約内容に応じて、保管した個数や期間、貸し出す倉庫面積などで決定している。多くの企業では以下の5項目に基づき、算出することが多い。
①保管料
保管料とは荷物を保管する際に掛かる費用のことで、多くの企業では三期制を導入している。三期制とは、1ヶ月を10日単位で区切り倉庫の保管料を決定する方法のことで、毎月1日〜10日までを第一期、11日〜20日までを第二期、21日〜末日を第三期として、保管料を計算している。
②荷役料
倉庫での入庫作業や出庫作業に対して掛かる費用のこと。取扱品数に対して設定する単価を掛けて算出することが多い。
③一貫料
出荷数に応じて、独自の計算式を用いて算出する方法のこと。
④坪賃料
保管料を計算せずに、貸している坪数にて料金を決定する方法のこと。主に貸している面積に対して坪単価を掛けて算出する。
⑤諸掛
保管料・荷役料以外の特殊荷役がある場合に請求する項目のこと。主にコンテナ詰めや検品・仕分け作業がある際に特殊荷役料として算出する。
業務内容によっては、これらの計算方法を複数組み合わせて算出することが多い。また企業によって設定単価や算出方法が異なるため、実際に依頼する際は複数企業に見積もりを依頼するとよいとされている。
倉庫業界は、運送業界とともに人々の暮らしを支えるインフラの一つである。ネットショッピングが主流になりつつある現在では、即出荷ができる体制が重要であり、それを牽引する大手企業の存在は大きい。以下では、日本の倉庫業界を先導しているビッグカンパニーを4社紹介する。
①株式会社近鉄エクスプレス
海外46カ国に拠点を持つ日本の大手国際総合物流企業。倉庫業に加え、航空輸送、海上輸送、製品の検品・出荷代行など幅広いサービスを展開している。創業から約50年にわたり蓄積された国際物流のノウハウは、物流業界の中でもトップクラスである。
②株式会社上組
国内6大港に独自のインフラを保有している港湾物流のリーディングカンパニー。倉庫業では常温倉庫に加え、低温倉庫、冷蔵・冷凍倉庫、※1くん蒸庫、※2サイロなど、多種な倉庫を有している。
※1くん蒸庫:輸入された農産品から有害な動植物が発見された場合に消毒が行える倉庫
※2サイロ:大麦、小麦、コーン、大豆ミールなどの貨物を保管する円筒形の倉庫
③三井倉庫株式会社(三井倉庫ホールディングス)
三井銀行の倉庫部として始まり、現在では倉庫業や港湾輸送、さらには流通加工など多様なサービスを展開している。親会社である三井倉庫ホールディングスは1909年に創業した老舗企業で、100年以上培ってきた物流ノウハウは現在の多様なサービスの核となっている。
④三菱倉庫株式会社
医薬品物流のパイオニアとして名高い三菱倉庫は、保管方法が厳しいとされている医薬品や化学品の物流を得意とする企業。最近では医薬品専門の運送子会社とともに、医薬品の輸配送品質向上を図る新たなサービス(DP-Cool)を構築し、日本の医薬品物流を牽引している。
倉庫業は、時代の変化や顧客のニーズに合わせ、様々なサービスを展開してきた。そして今後はネットショッピングなどの需要に対応すべく、さらなる変化を求められるだろう。
その例として、最近ではトラック運送事業者が営業倉庫の許可を取得し普通倉庫を運営するケースや、その逆として倉庫業者が運送業の許可を取得し配送まで行うケースが増えており、“運送業”と“倉庫業”は、事業者としての垣根がなくなりつつある。つまり物流業界は今まさに多様化が進んでおり、生き残るためには“幅広いサービス(商品)”が鍵となるのだ。そのため物流企業では、倉庫や運送現場の業務を行う現場業務部門に加えて様々な部門を構築し、幅広いサービスを展開している。次回では「物流業界の仕組み3」と題し、これらのサービスを支えている物流企業の組織構成やその特徴について掘り下げていきたい。
田原 政耶
1992年生まれ、東京都出身。
大学卒業後、大手空間ディスプレイ会社にて施行従事者として、様々な空間プロデュース案件に携わる。現在はベトナムへ移り、フリーライターとして活動中。
実績:月刊EMIDASベトナム版 「ベトナムものづくり探訪〜クローズアップ製造業〜」連載