ロジスティクス研究部
当研究部では、物流業界を様々な観点から研究し、業界の発展とサービス向上のヒントを発信していきます。
2020.10
現在の物流では、消費者の元により早く届けることが重要視されている。そのためには適切な在庫管理を行い、かつ素早い出荷を可能にする”倉庫内管理”が鍵となるだろう。以前はこの重要な管理を人の手のみで行っており、在庫の余剰や過不足、誤出荷などの様々なトラブルが生じていた。やはり膨大な商品管理を人の手だけで行うことは難しく、慎重に捌くにはどうしても時間が必要だったのだ。その中、WMS(倉庫管理システム)やLMS(統合物流管理システム)が登場し、これらの導入により問題は大きく改善された。つまりWMSやLMSは現在の物流体制へと進化させた立役者なのである。
今回は「現在の物流を支えるシステム後編」と題し、物流の管理を行うWMS・LMSの概要について掘り下げていく。
WMSとは、Warehouse Management Systemの頭文字をとった略語であり、倉庫への入出荷や保管といった「倉庫内物流」を向上させる管理システムを指す。倉庫内の物流を効率的に行うことで、在庫管理の正確性と出荷のスピードアップの実現が可能になるのだ。
このWMSを導入すると、倉庫内の作業効率が飛躍的に向上し、さまざまな利点をもたらす。まず一つ目は、”倉庫作業のスピードアップ”だ。WMSによって倉庫管理を行うと、入出庫の際にシステムより倉庫内のロケーションが指示されるため、作業効率が向上する。これにより膨大な在庫を管理している倉庫でも的確に入出庫が可能となり、ピッキング精度の向上や作業員削減が可能となるのだ。
次に二つ目は、”作業員に対する依存度の減少”である。WMSが導入されていない場合、管理体制はベテラン作業員が肝となる管理体制であり、ベテラン作業員に対する依存度が大きいだろう。しかしWMSを導入することで、システムによる安定した倉庫管理が実現可能となるため作業員の能力に左右されない。
そして三つ目は”出荷精度の向上”が期待できる。目視によるアナログチェックではどうしてもミスが生じやすいが、バーコードなどを用いたデジタルチェックを併用することで、限りなく間違いの少ない出荷が可能となるのだ。
このようにWMSは、適切な倉庫管理を図ることでコスト削減や生産性アップを促進している。
今回は、WMSの中で主要とされる”5つの機能”を紹介したい。これらは、商品を保管する倉庫内で発生する作業の効率化を図るシステムである。
①在庫管理
在庫数や置き場、製造年月日などの情報を一括で管理。これにより商品の新旧が分かりやすく、的確な在庫処理が可能となる。
②入出庫管理
入出庫スケジュールの管理や商品のラベル管理を行う。入出庫作業は商品が流れるスピードを決定付ける重要な業務であり、的確な管理を行うことで効率的な作業が期待できる。
③返品管理
返品のようなイレギュラーな変動の管理を行う。人の手で行うとミスが生じやすいフェーズだからこそシステム管理を行い、正確な在庫数を記録する。
④棚卸管理
棚卸の指示機能やスキャナなどを使った簡単な作業によって、棚卸作業に必要な手間と時間を削減する。
⑤帳票管理
納品書や発注書などの帳票を作成・発行する。毎日発生する業務を効率化することによって、日々の生産性向上が見込まれる。
WMSの具体例として、日立物流ソフトウェア株式会社の”ONEsLOGI”や株式会社富士通アドバンストエンジニアリングのLOMOS/WMSなどが挙げられる。これらのシステムは主に自社倉庫を有する企業(製造業や小売業など)にて導入されるケースが多い。
LMSとは、 Logistics Management Systemの頭文字をとった略語で、入出荷の起点となった商行為と、そのために行われる物流作業全体を管理するシステムである。先ほどご紹介したWMSはあくまで倉庫内物流に特化したシステムだが、LMSは物流が開始される商行為から管理対象となり、製品の製造・注文・出荷され、消費者に届くまでのすべてを管理できる。
またそれだけでなく、全国の拠点を俯瞰し全ての在庫等の可視化が行えるため、在庫の操作がスムーズになるのだ。WMSはひとつの倉庫管理を行うシステムであるが、LMSによりさらに広範囲の物流が管理可能となる点がWMSとの大きな違いである。
LMSを導入すると、物流に関する作業が全て俯瞰してチェックできるようになる。そして物流のトータルコストの削減や、業務改善などの効果が得られるのだ。収集したデータに基づきPDCAを繰り返すことで、よりよい物流活動が期待できるだろう。
LMSの場合、サービスの中身が提供する会社によって大きく異なるため、ここではLMSの基本的な”3つの機能”について紹介する。
①物流の一元管理
全ての倉庫や店舗などの統合的な在庫管理を行う。全拠点のリアルタイムな在庫数を確認することで、急増するニーズにも柔軟に対応でき販売機会損失の削減が期待できる。
②情報分析
物流費用・人員配置・入出荷量・在庫などあらゆる角度から分析を行い、日々の業務改善に関する重要な情報を抽出。的確な分析が行われることで業務改善が迅速かつ効率的に行われる。
③物流全体の計画作成
商行為から商品の輸送までに関わる物流全体の計画の作成する。
LMSの具体例として、株式会社セイノー情報サービスの”総合物流管理LMS”や株式会社ワイ・ディー・シーの”Logi Works”などが挙げられる。これらのシステムは既に物流拠点を有しており、さらに新たな拠点を設ける場合などに導入されるケースが多い。
では前回に引き続き、ここから先は”在庫管理作業”における”DX”(DX:データとデジタル技術を活用して変革を起こすこと)の可能性について議論していきたい。
前回(TMS:輸配送管理)と同様、WMSやLMSを使った管理は物流全体の作業効率を飛躍的に向上させた。特にWMSは在庫の余剰や欠品など防ぎ、迅速な商品供給の実現に一役買っている。これは個人向けの小口配送が増加する現代において非常に重要なポイントと言えるだろう。しかしながら、現在の管理システムもDXの力が掛け合わされば、さらなる進化が期待できるのだ。
一つ例を挙げると、”AI(人工知能)による需要予測”が考えられる。WMSにより的確な在庫管理が可能となったものの、まだ消費者の購買意欲に基づく需要までは予測できない。つまり市場ニーズの変化に伴う商品の入れ替えや物量管理に関してはまだ人の力が主軸となっているのだ。しかしこの領域にAIが加わったらどうだろうか。企業の販促活動や消費者のサーチ回数などからAIによる需要予測を行う。そしてその結果を商品管理と連携させれば、より精度の高い管理が実現できるようになるだろう。しかしながら、上記の実用化にはまだ時間が必要だ。そう遠くない将来に現実となることを期待している。
「現代の物流を支えるシステム前後編」を通して、TMS・WMS・LMSという3つの管理システムを紹介した。これらのシステムは現在の物流業界を支えるものへと進化しており、これらを掛け合わせることによって、物流全体の質が向上し企業側と消費者側に利点をもたらしていることは言うまでもない。そして今後はこれらの物流フェーズに対しDXの力が加わり、今までとは異なる進化が期待できるだろう。AI・ドローン・新システムなどの活躍は、すぐ近くにまで迫っている。新たな物流体制の構想は、もうすでに始まっているのだ。
田原 政耶
1992年生まれ、東京都出身。
大学卒業後、大手空間ディスプレイ会社にて施行従事者として、様々な空間プロデュース案件に携わる。現在はベトナムへ移り、フリーライターとして活動中。
実績:月刊EMIDASベトナム版 「ベトナムものづくり探訪〜クローズアップ製造業〜」連載