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ロジスティクス研究部

当研究部では、物流業界を様々な観点から研究し、業界の発展とサービス向上のヒントを発信していきます。

2020.09

【第三回】現代の物流を支えるシステム 前編ー輸配送の管理ー

現在の日本において、消費者の元に商品が”予定通り届くこと”は当たり前となっている。裏を返すと、輸配送を担う企業側は、消費者の”当たり前”を守り続ける義務があるといっても過言ではない。この義務を果たすためには物流プロセスを最適化し、無駄のないスムーズな流れを構築する事が重要になるのだ。そして現在、物流業界ではあらゆるプロセスにおいて”管理システム”が採用されており、これらのシステムによって物流プロセスの最適化が図られている。 今回は”現代の物流を支えるシステム−前編”と題し、”物流システムの全体像”とその中の一つである”TMS(輸配送管理システム)”について掘り下げていく。

物流業界を支えるシステムの全体像


各システムの詳細に移る前に、まずは物流業界を支えるシステムの全体像について確認しておきたい。

物流を支える 3 つの主要システム

コンピューターが普及する以前、物流に関する全ての情報は”人の手”によって管理されていた。しかし管理すべき情報量は膨大で、人の管理には限界があった。 1980年代になるとコンピューターの普及が進み、管理体制のシステム化が検討され始める。そして”人”に依存していた物流の管理体制は、”コンピューターを使用した管理”へと移行されたのだ。現在では、WMS・LMS・TMS(下記参照)という3つのシステムが主軸となり、あらゆる物流プロセスを支えている。

■3つの主要システム

  • WMS(倉庫管理システム) 倉庫への資材・商品の入出庫管理や在庫管理などの機能を搭載したシステム。作業中のミス・破損・在庫のチェック漏れを防ぎ、作業の正確性とスピードアップが期待できる。
  • LMS(総合物流管理システム) WMSに加え物流全体を管理するシステム。物流活動はもちろんのこと、荷主の受注から出荷・請求・売掛管理・発注から入荷・支払・買掛管理など幅広い活動を管理できる。
  • TMS(輸配送管理システム) 配車計画や運行管理を支援するシステム。運行スケジュールや車両配置、ドライバーの手配などをシステム上で行い、GPSを使って車両の位置をリアルタイムで把握できる。

そして今回は、”輸配送”を管理する”TMS”に焦点を当て、解説していく。

輸配送を総合管理するシステム − TMSの存在


”物流コスト”の半分以上は、”配送コスト”が占めていると言われている。つまり全体コストを削減するためには、”いかに効率よく輸配送を行えるか”、つまり”TMS”が鍵となるのだ。

TMS(輸配送管理システム)とは?

TMSとは、Transport Management Systemの頭文字をとった略語であり、輸配送に特化した管理システムを指す。配車の効率化することによって、人件費・配送費などのあらゆる物流コスト削減に良い効果をもたらしている。

TMS(輸配送管理システム)の5つの機能

今回は、TMSの中で主要とされる”5つの機能”を紹介したい。これらは、商品が消費者に届くまでの過程のサービスを向上させるシステムである。

  • 配車管理 納品場所・物量・納品時間などの情報を基に、最適な配送車両・配送コースの選定を行う。これらの最適化は、無駄な運搬コストを削減し、ドライバーの負担の軽減に繋がっている。
  • 車両位置の管理 GPSを使い、現在の車両位置や進行状況、到着予定時刻などをリアルタイムで把握する。また交通渋滞などのトラブル発生時にもドライバーへの指示が的確になるため、配送時間のロスを回避できる。
  • 運賃計算 区域・経路・配送車両などから基準運賃を算出。重要かつ手間のかかる請求・支払い処理の作業時間が削減できる。
  • 運転日報自動生成 ドライバーが帰庫後に作成する”運転日報”を自動的に作成。運行実績、請求支払い業務など迅速な事務処理が可能となり、ドライバーや事務担当者の業務を軽減させる。
  • 貨物追跡管理 宅配業者のホームページにて送り状番号を入力することで、今どこに荷物があるか追跡可能となる。

TMSの具体例として、NECソリューションイノベータ株式会社の”ULTRAFIX”や、富士通株式会社の”Logi fit TM-配車”、そして日立物流ソフトウェア株式会社の”輸配送業務向け物流システム”などが挙げられる。これらのシステムは様々な企業で利用されており、輸配送時の業務改善や物流コストの削減に大きな成果をもたらしている。

TMS(輸配送管理システム)の導入効果とは

TMS(輸配送管理システム)は、従来の当たり前を大きく覆し、消費者や業務担当者に大きな利点をもたらした。 一つ目の利点は、”車両手配に伴う人的リソースの削減”である。TMSが普及していない時代は、必要なトラックのサイズや台数の選定、配送ルートの選定、配達日数の算出などのあらゆる管理を全て”人”が行っていた。これは業務担当者の仕事量が増え、その分、人件費がかかる事を意味する。そして”人”の作業であるからこそ、ミスも起きやすい事は言うまでもない。コンピューター管理へ移行したことによって、人的ミスは格段に減少し、サービスの安定に繋がった。現代において、予定通り物が届くという事は”当たり前”だが、この背景には、”TMS”の存在が大きい。 二つ目の利点は、”配送コストの削減”である。物流のコストの大半は”配送コスト”と言われており、配送コストの削減は、全体の大幅なコスト削減に直結するのだ。 TMSは最適化された配送ルートに基づきドライバーに指示を出すため、配送時間や労力に無駄が生じにくい。また車両に搭載されたGPSを使い、リアルタイムで配送ルートの最適化を図るため、トラブルにも柔軟に対応できる強みがある。これらによって、配送時の無駄を一切排除し、最小限のコストで配送が可能となった。

輸配送作業におけるDXの可能性とは ー配送の無人化ー


ここから先は少し踏み込み、”輸配送作業”における”DX”(DX:データとデジタル技術を活用して変革を起こすこと)の可能性について議論していきたい。 現在の輸配送作業における様々な問題点は、TMSによって大きく改善された。しかしながら、TMSをもってしても解決できていない問題が存在する。”ドライバーの人手不足”だ。 TMSの導入により、今まで人が行っていたあらゆる作業がシステム化された。しかし物流の根幹を担う”商品を消費者に届ける行為”だけは、未だ”ドライバー=人”が行っている。小口配送が増加している現在ドライバー不足は深刻で、いずれ人の力にも限界が訪れるかもしれない。そこで、”DX”の出番だ。この輸配送作業に最新のデジタル技術を駆使した”新しい輸配送のカタチ”が生まれようとしている。 その一つとして注目されているのが、”配送の無人化”である。ドローンや自動運転を利用した”配送の無人化”。これが実用化すれば、ドライバーの人手不足解消に一役買うこととなるだろう。実際に米Amazon社では、ドローン配送サービスを実験を進めており、2020年8月末にFAA(米連邦航空局)から正式な認可を受けた事を発表した(※資料1)。これは、Prime Air(プライムエア)と呼ばれるサービスで、重量が5ポンド以下で30分圏内の配達時に限り適用される予定だ。これが正式に実用化されれば、無人配達の記念すべき第一歩となる。DXの力によって、物流の輸配送作業はさらなる進化を遂げるに違いない。

まとめ

TMSは、現在の物流を支える輸配送管理システムとして、大きな効果をもたらしている。”配送ルートの最適化”は、物流全体のコスト削減はもちろんのこと、最短日数で消費者に商品を届けるシステムを築き、消費者と企業の信頼関係の構築に繋がった。 しかしながら、出荷後の輸配送に特化したシステムだけでは物流はなりたたない。なぜなら消費者が欲している商品の”在庫管理”が適正に行われていなければ、出荷することはできず、結局のところ消費者に商品が届くまで、タイムラグが生じるからだ。そしてこれらの管理を担うシステムこそ、後編で紹介するWMS・LMSである。 次回は「現在の物流を支えるシステム後編」と題し、WMS・LMSの概要について掘り下げていきたい。

記者紹介

田原 政耶

1992年生まれ、東京都出身。 大学卒業後、大手空間ディスプレイ会社にて施行従事者として、様々な空間プロデュース案件に携わる。現在はベトナムへ移り、フリーライターとして活動中。
実績:月刊EMIDASベトナム版 「ベトナムものづくり探訪〜クローズアップ製造業〜」連載

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