ロジスティクス研究部
当研究部では、物流業界を様々な観点から研究し、業界の発展とサービス向上のヒントを発信していきます。
2020.07
”多品種少量社会”と言われている現代において、需要と供給の適正を図る行為は物流業界にとって必要不可欠だ。特に、過不足のない適切な在庫管理は、管理コストの削減や顧客の信頼に繋がり、企業と消費者の両者にとって良い影響を及ぼす。だからこそ物流業界は、顧客のニーズを察知して物の流れを最適化する”ロジスティクス”を実現させなければならない。
実はこの”ロジスティクス”、物流手段が発展する以前より存在しており、そして現代においても重視されている。
”ロジスティクス”とは何かーー。
「ロジスティクス研究部」記念すべき連載の第一回は、その名の核である”ロジスティクス”について、言葉が持つ歴史的な背景を交えながら、ロジスティクスの真意について再確認していきたい。
その前に、読者は”ロジスティクス”と”物流”の意味の違いをご存知だろうか。歴史的な背景を語る前に、まずは両者の違いについて触れておきたい。
ロジスティクスとは、モノの流れを顧客ニーズに合わせて、計画・実行・管理することを指す。製品の保管から輸送・包装・流通加工などの一連の流れを企業側が一括管理をし、製品が消費者にわたるまでの流れの最適化を図る。
”物流”とは、商品が消費者の手元に届くまでの”モノの流れ”のこと。
主に、輸送、保管、荷役、包装、流通加工、情報処理といった、消費者の元へ商品をスムーズに届けるための活動を指す。
”ロジスティクス”と”物流”の違いは、その”目的”にある。
”物流”の目的は、物資を消費者に供給する過程の活動であり、一方で”ロジスティクス”の目的は、その活動を含めた物流活動全体の最適化である。
購入者の元に商品が届かなければ、企業と消費者の信頼関係は簡単に崩れてしまう。
物流は、顧客との信頼関係を構築する活動であり、”ロジスティクス”は物流を含めたあらゆる活動が最適になるように行う管理そのものを指す。
”物流”は”ロジスティクス”プロセスの一つであり、ムダのない物流活動は、物流全体の最適化に繋がるのだ。
ロジスティクスを行うことで、企業は一体どのような効果が得られるだろうか。物流全体の最適化は、企業にとって以下の3つのメリットが挙げられる。
余剰生産の回避
在庫の適正化
物流コストの削減
必要以上の生産は、材料や保管場所の不要コストが発生する原因となり得る。余剰生産を回避することは無駄なコストを削減し企業の利益にも繋がる。
出荷する数量を適切に把握することで、在庫不足の危険性を回避。必要な分を予測し在庫管理を行うことで、消費者の必要なタイミングを逃さずに供給活動が行えるようになる。
適正な在庫管理が可能になれば、自ずと物流コストの削減にも繋がる。需要を大幅に上下する供給活動を限りなく減らすことは、同時に生産コストや保管・運搬コストにも良い影響をもたらす。
消費者の手元に届くまでの”モノの流れ(=物流)”にフォーカスするのではなく、顧客ニーズに合わせて最適化(=ロジスティクス)を積極的に行う企業は、上記のようにコスト削減や利益拡大などの数字面から成果を得ている。また、無駄を排除し物流全体の活動をシンプルにすることは、従業員の労働時間削減にも繋がると言える。
さて、前項では”ロジスティクス”と”物流”の違いについて解説したが、ここでは”ロジスティクス”という言葉の背景について触れていきたい。
ロジスティクスとは元々、”兵站(へいたん)”という軍事的意味が込められている。
兵站とは、戦地での後方支援として、戦地での物資の調達・輸送・ 管理を行う役割のことであり、戦争中の物流を担当する組織を指す。
戦争真っ只中の時代において、一度に運搬できる物量は限られていた。その中で、彼らは武器や医療道具や食糧など、兵士の命に関わる重要な物資を届けるという任務を背負っていたのだ。
戦地に散らばる兵士たちに必要物資を届けるためには、物資配給活動における行動の無駄を無くし、必要なモノを必要な場所へ最短で運ぶ、”流れの最適化”が必要不可欠になる。この発想は現代における”ロジスティクス”のルーツであると言えるだろう。
武器が届かなければ敵陣地へ攻め入ることは不可能、かつ食糧がなければ戦い以前に兵士が飢えてしまう。つまり、必要物資の補給活動は兵士の生存率に直結した。
国境にて小競り合いが行われた16世紀以前。物資の補給活動は重要視されていたものの、当時は”人力”や”馬力”による輸送が主流。つまり、その運搬力には限界があったのだ。
物資がなくなると兵士たちは”現地調達”を行い、近隣の集落にて必要物資を略奪しながら応戦したという。必要なものが必ずしも手に入るとは限らず、戦力を保つことは決して容易ではなかった。戦に勝つためには、戦力を落としてはならない。そのためには物資配給活動つまり”兵站”の見直しは必要不可欠であった。必要な物資の調査・運搬方法の検討・ルート開拓・実行。必要なモノを適切に運び届けるという物資配給の”最適化”を行ったこの兵站活動によって、各国の戦力が格段に向上したのは言うまでもない。
兵站を制する者は、戦を制すーー。”ロジスティクス”は、戦争が行われていた何百年も前から、人々とモノの関係を構築する上で重要な思考であったのだ。
モノの生産及びモノを消費者に届けるまでの流れを一元化して管理する、”ロジスティクス”。その背景には、戦地での物資の調達・輸送・ 管理を行う”兵站活動”があったのだ。
戦争が行われていた時代から現在に至るまで、ロジスティクスの重要性に何一つ変化は起きていない。このことから”ロジスティクス”はどんな時代においても、物流に携わる者にとって最も注視すべき事項であると断言できる。
そのロジスティクスの歴史を遡ると、イノベーションが起こり始めたのは19世紀以降。
輸送手段の選択肢が少なく、”船舶”への依存が大きかった当時、トラックや鉄道などの登場により、大きな変化が生まれた。その後、荷役の自動化や管理処理のシステム化が行われ、現在の”物流”が構築されている。さらに近年では、DX(Digital transformation:データとデジタル技術を活用して変革を起こすこと)が浸透してきており、物流業界ではさらなる変革が起こるに違いない。
そして本連載では、DXが物流業界にどのような影響を及ぼすのか、あらゆる視点から解説していく。次回では、物流とDXを語る上で欠かすことのできない「物流におけるイノベーションの歴史」について掘り下げていきたい。
田原 政耶
1992年生まれ、東京都出身。
大学卒業後、大手空間ディスプレイ会社にて施行従事者として、様々な空間プロデュース案件に携わる。現在はベトナムへ移り、フリーライターとして活動中。
実績:月刊EMIDASベトナム版 「ベトナムものづくり探訪〜クローズアップ製造業〜」連載